大谷翔平の"50-50"達成とその走力の科学:秋本真吾が解説

大谷翔平の"50-50"達成とその走力の科学:秋本真吾が解説

大谷翔平選手の「50-50」達成と走力の秘密

50本塁打と50盗塁「50-50」を達成した大谷翔平選手の盗塁を、元陸上アジア記録保持者の秋本真吾さんが分析

前人未到の「50-50」を達成したロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手。その打力の高さはすでに多くの人々が称賛していますが、日本人最多となる59盗塁を記録するほどの走力は、ファンにとっても意外な一面だったかもしれません。では、なぜ大谷選手は今季、ここまで盗塁を決めることができたのでしょうか。その進化の秘密を、陸上200mハードルの元アジア記録保持者であり、現在はプロ野球選手や球団のスプリントコーチも務める秋本真吾さんに聞きました。

「足の速さ=ピッチ×ストライド」の大原則

まず、陸上競技でも野球でもサッカーでも、「足の速さ」というのは「ピッチ(足の速さ)×ストライド(足の幅)」の掛け算になります。いかにピッチを速くして、かつストライドを広げられるか。これは子どもからトップアスリートまで同じ原理・原則です。

もちろん個人の体格等で差はありますが、その最大値を求めて理論的に動作を改善していくことで、必ず足は速くなります。世の中の陸上選手も日々さまざまなトレーニングをしていますが、結局はその2つをどう両立させるか。それが全てです。

秋本真吾さんのプロ野球チームでの経験

私がプロ野球チームの走塁指導に関わり始めたのは2016年の阪神タイガースからです。実は当時、阪神の選手には走塁練習でハムストリングスなど筋肉系のケガを起こす選手が非常に多かったです。最初にプロ野球選手の走りを見て驚いたのは、オーバーストライドになっている選手がとても多かったことです。

これは当然と言えば当然で、専門的な走りの指導をされずに「早く次の塁に行こう」と思うと、どうしても無意識に一歩一歩を大股にして、少しでも先に進もうとします。ただ、実際に動いてみると分かりやすいとは思いますが、オーバーストライドで走ると自身の「身体よりも前方」に「かかとから」接地することになります。

人が走るときは、基本的に自分の「体の軸(中心)に近い場所」に接地した方が力は伝わりやすいです。例えば空き缶を踏み潰すときに自分の身体より前で踏んでも全然、力が入らないと思います。でも、身体の真下で踏めばしっかり力が伝わります。それと同じことで、オーバーストライドのかかと接地だと効率的に力が伝わらないんです。

オーバーストライドの問題点

また、的確な位置につま先から接地することで、筋肉だけでなく「腱のバネ」も使えるため、前方への推進力が全く変わってきます。陸上競技で使うスパイクのピンがつま先側にしかついていないのは、そもそもつま先での接地を前提に考えられているからです。

加えてかかと接地だと自分の身体より前に足が着くので、膝裏とハムストリングスの筋肉でそれを引き戻さないといけなくなります。そのため速く走れないだけでなく、筋肉で無理矢理足を動かすことになるため、ハムストリングスの肉離れなどの筋肉系のケガにつながります。野球選手が走塁中にハムストリングスの肉離れを起こすようなケースでは、大抵このオーバーストライドに陥っています。

大谷翔平選手の走りの分析

では、そんな前提の上で、今季の大谷選手の走りを見ていこうと思います。

大谷選手の走力の秘密は、彼が「ピッチ」と「ストライド」のバランスを非常にうまく取り入れていることにあります。彼の走りは、足の速さと幅を両立させ、効率的に力を伝えることで、高速で安定した走塁を実現しています。

大谷選手は、走塁の際につま先から接地することで、筋肉だけでなく腱のバネも活用しています。これにより、前方への推進力が大幅に向上し、速く走ることができます。また、彼の走りはオーバーストライドを避け、体の軸に近い位置に足を接地させることで、力の伝達効率が高まっています。

さらに、大谷選手は走塁の技術だけでなく、戦略的な面でも優れています。彼は盗塁のタイミングを的確に見極め、投手や捕手の動きを読み取り、最適なタイミングで塁を進むことができます。これは単に足が速いだけでなく、頭脳的な判断力も兼ね備えている証です。

結論

大谷翔平選手の「50-50」達成は、単なる打力の高さだけでなく、走力の進化が大きな要因となっています。彼の走力は、科学的なアプローチと戦略的な判断力の融合によって、前人未到の記録を達成することができたのです。今後も、大谷選手の活躍が期待されます。