深センの日本人学校で起きた悲劇:中国の反日感情と子供たちの安全
深センの日本人学校で起きた悲劇
中国・深圳市の日本人学校で、10歳の男児が殺害されるという痛ましい事件が起きました。この事件の現場は、目を覆いたくなるような惨状だったと伝えられています。
元朝日新聞中国特派員でジャーナリストの峯村健司氏は、事件の詳細を次のように語ります。
「被害者は日本人の父親と中国人の母親との間に生まれた10歳の男児でした。母親と一緒に自転車で登校していたところ、日本人学校から約200メートルの地点で男に襲撃されました。この犯行は、日本人学校の児童を狙おうという執念を感じさせる計画的なものでした。男児は太腿や腹を何度も刺され、刃物は肝臓まで届いていたといいます。集中治療室に運ばれましたが、出血多量で亡くなりました。」
地元メディアの報道によると、容疑者は「鐘」という姓の44歳の無職の男性で、過去に「公共物破壊」など2度の前科があったとされています。
外交的な対応
事件後の23日、ニューヨークの国連本部で中国の王毅外相と会談した上川陽子外相は、容疑者の動機を含む事実解明や日本側への説明を求めました。しかし、王氏は「冷静かつ理性的に対応すべきで、政治問題化や問題の拡大は避けるべきだ」と応じるのみで、具体的な回答は得られませんでした。
中国側の対応の不透明性
中国取材歴のある全国紙記者は、中国側の対応について次のように述べています。
「日中間で実際に政治問題化している以上、容疑者の動機などの詳細はこれ以上出てこないと見られます。中国の裁判は基本的に非公開で進むため、量刑などをメディアが追い続けるのは難しいでしょう。」
中国側が子供たちの安全確保にどこまで真剣に対応するのかも不透明です。事件後、上川外相は中国の日本人学校の警備強化のため、外務省の今年度予算から4300万円を拠出すると発表しました。これは警備強化が日本側の負担によって進めなければならない現状を示しています。
現地の反応
事件後、深センの日本人学校の校門前には花が手向けられ、「日本人学校」の文字はカーテンで覆い隠されました。犠牲となった児童と同じ日本人学校に子供を通わせる保護者たちに現地で話を聞くと、事件による動揺が伝わってきます。
「この辺りは高層マンションが立ち並ぶ住宅街で、とても静かな場所です。また、中国なので街中に監視カメラがあり、セキュリティーが非常に高い。日本人の間では、『日本よりも安全だよね』などと話していた矢先のことだったので、驚きを隠せません……」
「深セン市南山区は外国人が多く、治安の良いエリアで、日本人だからという理由で怖い思いをしたことは一度もありませんでした。娘が被害に遭われた男児と交流があり、『優しいお兄ちゃんだよ』と教えてくれました」
「職場には中国人スタッフが多くいますが、事件が話題になることはなく、重大にとらえている様子もない。在住日本人との認識の差を感じます」
「日本人憎悪」の背景
日本人学校の児童が狙われた背景には、中国社会で増幅される「日本人憎悪」があると見られています。
「習近平政権の愛国教育の強化により反日感情が高まっています。中国のSNSには『日本人学校はスパイの養成機関だからみんなで監視しよう』との書き込みが相次いでいます」(峯村氏)
そうした憎悪が現実世界にまで溢れ出ている例も見られます。今年6月、江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスが襲われ、日本人親子がけがを負った事件では、犯人を止めようとした中国人女性も刃物で刺され、亡くなるという悲劇も起きました。
「中国のSNSでは犯人が英雄視され、犠牲となった中国人女性については『日本人を助けるなんて』と売国奴扱いされている」(峯村氏)といい、今回の事件後も〈大きな刀で日本人の首を叩き切れ〉といった過激な投稿が溢れています。厳しいSNS検閲で知られるはずの中国政府はそれを取り締まる様子もなく放置しています。
現状への対応
この現状をこのままにしていいはずはありません。中国政府には、より積極的に事実解明と安全対策に取り組むべきです。また、日中両国の関係改善に向けて、相互理解と信頼構築が不可欠です。