【37年目の月9ドラマ枠】『HERO』と『のだめカンタービレ』が最強の作品に選ばれる
鈴木保奈美と織田裕二が出席した『東京ラブストーリー』の制作発表会見。この作品は、フジテレビの月曜夜9時の看板ドラマ枠「月9」で放送され、1987年から続く日本のテレビ文化を象徴する存在だ。この枠からは、多くの名作が生まれ、特に平成以降は若者文化や恋愛模様を描いた作品が多くの視聴者に支持されてきた。
元上智大学教授でメディア文化評論家の碓井広義氏と、テレビドラマに詳しいライターの田幸和歌子氏が、「最強の月9」を決めるべく、徹底討論を行った。
碓井氏は、月9の初期作品『君の瞳をタイホする!』(1988年)や『同・級・生』(1989年)について触れ、「美男美女」「カタカナ職業」「最新ファッション」の3つの要素で成り立っていたと説明。バブル経済期には「恋愛がすべて!」というキラキラした都会の人間関係が描かれていたが、1990年代に入ると社会の空気が変わり、トレンディドラマは「純愛」にシフトした。『東京ラブストーリー』(1991年)や『101回目のプロポーズ』(1991年)が代表的な作品として挙げられた。
田幸氏は、『東京ラブストーリー』について、若者の等身大の恋愛が描かれたと述べ、織田裕二が演じた永尾完治と鈴木保奈美が演じた赤名リカの関係に焦点を当てた。リカの名セリフ「カンチ、セックスしよう」は、彼女の真っ直ぐな愛情表現を象徴していた。二人は熱烈に愛し合ったが、最終的にすれ違いで結ばれなかった。この結末が、当時の月9にしては珍しく、視聴者の心に深く残っていると語った。
碓井氏は、『101回目のプロポーズ』を高く評価し、武田鉄矢が演じた冴えない中年男・達郎と、浅野温子が演じたヒロインとの関係に注目。達郎がトラックの前に飛び出して「僕は死にましぇ~ん!」と叫ぶシーンは、命懸けの愛を表現しており、人々の結婚や恋愛に対する価値観の変化を表していた。
阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件が起こった翌年に放送された『ロングバケーション』(1996年)も特徴的だ。木村拓哉が演じたピアニスト見習いの瀬名と、山口智子が演じた売れないモデル・南が恋に落ちるが、恋愛は主軸ではなく、登場人物たちの将来への葛藤や成長が描かれていた。二人が互いに支え合いながら成長していく姿が魅力的だった。
木村拓哉は、11本の月9で主演を務め、常に視聴者から支持を受け、高視聴率をマークした。田幸氏は、木村拓哉が月9スターとして注目を浴びたのは、主演作ではなく、2番手として出演した『あすなろ白書』(1993年)の「あすなろ抱き」のシーンからだと述べた。
碓井氏は、『HERO』(2001年、2014年)を最強の月9ドラマとして挙げた。木村拓哉が演じた検察官・久利生公平を中心に、型破りなキャラクターが次々と事件を解決していく姿は、ニュータイプのヒーローとして魅力的だった。このドラマは「職業コメディ」という新ジャンルを確立し、月9の幅を広げた作品だ。
田幸氏は、『のだめカンタービレ』(2006年)を高く評価し、上野樹里が演じたのだめと、玉木宏が演じた千秋の関係に注目。二人のユーモアたっぷりの関係と、キャラクターや音楽の魅力が最大限に引き出されたと述べた。
2000年以降の月9は、主人公のキャリアや個々の成長、コメディ要素も重視されるようになった。職業モノの代表作として『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-(第2シーズン)』(2010年)が挙げられ、チーム全員が主役という魅力が評価された。ミステリーの代表作として『ガリレオ』シリーズ(2007年、2013年)や、『鍵のかかった部屋』(2012年)、『ミステリと言う勿れ』(2022年)が挙げられた。
恋愛モノが減った一方で、新しいヒロイン像が誕生した作品もあった。『やまとなでしこ』(2000年)の松嶋菜々子が演じた桜子は、才色兼備のキャビンアテンダントで、幼少期の貧しさから「お金こそが幸せの鍵」という信念を持っていた。彼女が最終的に恋に落ちた相手は貧しい魚屋で、奥深いテーマのラブコメだった。
2023年の7月期の月9『海のはじまり』は、恋愛ドラマでも家族ドラマでもない新しいジャンルの作品として評価された。主人公の夏(目黒蓮)が、別れた恋人・水季の死と、水季との間に娘がいたことを知らされる。夏が現在の交際相手や水季の周りの人、そして娘と向き合っていく物語は、観ていて共感や思い入れを超えた深いテーマを描いていた。
討論の結果、碓井氏は『HERO』を最強の月9ドラマとして挙げ、田幸氏は『のだめカンタービレ』を最強としながらも、『コンフィデンスマンJP』も素晴らしい作品として評価した。