新庄剛志監督の意外な素顔と岩本勉氏の回想:北海道日本ハムファイターズの躍進

新庄剛志監督の意外な素顔と岩本勉氏の回想:北海道日本ハムファイターズの躍進

新庄剛志監督の素顔と岩本勉氏の回想

北海道日本ハムファイターズが2年連続最下位からクライマックス・シリーズ(CS)進出を決めた。この快進撃の立役者は、就任3年目でチームに進化をもたらした新庄剛志監督だ。現役時代に新庄と共にプレーしたOB解説者の岩本勉氏に、新庄監督の素顔とその指導力について聞いた。

初対面と友情の始まり

新庄監督と岩本氏は同じ年齢で、1999年のオールスターゲームで初対面した。当時は交流戦がなく、岩本氏はファイターズの若きエース、新庄は阪神タイガースのスター選手だった。新庄が「岩本くんだよね」と呼びかけた時、岩本氏は驚いた。

「同学年でも『くん付け』する人が僕以外にもいたんだ、と驚きました。僕も絶対に呼び捨てはしないんです。そこから縁が始まったんですが、話せば話すほど、お互いの境遇に似ているものを感じて仲良くなっていきました。共に小さな頃はあまり裕福ではなく、父親を尊敬していて姉を大切にしているという家族への思いも通じるものがあった。いっちょ世の中を見返してやろう、という気持ちを持っているところも同じで、お互いに『気ぃ遣い』でもある。おもろい人間やな、と思っていました」

新庄の日本ハム移籍とチームの変革

2003年オフ、ニューヨーク・メッツをノンテンダーFAとなっていた新庄は、日本球界の復帰先としてファイターズを選んだ。北海道移転を翌年に控えるチームはまさに開拓期だった。ベテランの域にあった投手・岩本もまた、新しい本拠地で出発するファイターズを全国区の人気球団にしたいという夢を抱えていた。二人は食事を共にするたび、「どうやったらチームが強くなるか」「どうやったら人気が出るか」と話し合っていた。

「よく『札幌ドームを満員にしたいね』という会話をしたのを覚えています。不人気球団でしたから、満員の中で投げるなんてそれまで相手チームの優勝やイチロー人気で、というくらいしか経験がなかった。どうやったら人気が出るか、どうやったらチームは強くなるか、と熱く話し合っていたんです。北海道移転とともに新庄加入、というインパクトは本当に大きかった。スタイルが良くてビジュアル抜群でね。つーやん(新庄)は『二のセン』で行ってよ、俺は今まで通り三枚目でやるわ、ってそんな話をしましたね」

破天荒なパフォーマンスの裏側

新庄はビジュアルとプレーだけでなく、今までの野球界では考えられなかったパフォーマンスで野球ファンの視線を惹きつけていった。独特ないでたちや、かぶり物パフォーマンス、天井からゴンドラで登場したこともあった。破天荒なようでその実、裏側では周囲に気遣いを忘れないその姿を岩本氏は見ていた。

「エンターテインメント的なことを沢山やっていましたけど、実は全て、しっかり根回ししていたんですよ。球団やスタッフに、これをやっても大丈夫ですか?ふざけすぎじゃないですか?って。生え抜きのベテランだった田中幸雄さんにも全て事前にお伺いを立てていました。普通は途中から入ってきた選手が好き放題やったら、チームに不協和音が出ると思うんですけど、それが全く出なかったのは彼が陰で繊細に気を遣っていたから。その姿には本当に感心しました」

スター新庄の隠された努力

新庄の意外な素顔はもう一つある。春季キャンプ中のある日、朝一番でウエートルームに入った岩本氏は、誰もいないと思っていた室内に響く荒い息遣いに驚いた。汗だくになってダンベルを持ち片足屈伸していたのは、新庄剛志その人だった。

「びっくりして『どうした?』と聞いたら『一回肉離れしているから、定期的にチェックしないといけないんだよ』と。集中してトレーニングを終えると『じゃあ後でね』って何事もなかったように出て行った。

その後、チームの練習が始まるや否や悠々と現れてバカバカ―ンって打ってね。周囲には、スター選手がゆっくり来て気持ちよく練習しているんだとうつるでしょうね。でも実際には、その前に入念なトレーニングをしているんですよ。ストイックを絶対にストイックとは見せない。才能だけで野球をやっていると思う人もいますが、それは完全に間違いです」

新庄監督の3年計画

心通じ合う仲だが、2022年に新庄がファイターズの監督に就任してからは解説者としてあえて距離を保ち、グラウンド上ではなるべく話し込まないようにしているという。しかし岩本氏は、新庄監督が就任直後にふと漏らした言葉を今も鮮やかに記憶している。

「『ガンちゃん、辛抱して見といてね。3年目、俺やるよ』って言っていました。彼の人生は色々なことが『3年周期』なんだそうで、阪神でも入団3年目にブレークして、アメリカも3年で帰ってきている。ファイターズにも3年いて引退。『3年目の最終年には必ずやりたいことを叶えている』って言うんですよ。その割には監督は1年契約でしたけどね(笑)。とはいえ、あの時から彼の中では密かに3年計画を描いていて、1年目、2年目と手応えがあっての今シーズンなんだと思いますよ」

岩本氏の解説スタイル

岩本氏は、解説者として19年目のシーズンとなる。関西弁の軽妙なトークやインパクトのあるフレーズ、盛り沢山のエピソードなど、その解説は他とは一線を画すが、そのスタイルを確立するまでには紆余曲折があった。

「駆け出しの頃は、苦情の手紙が来たこともあります。『70歳過ぎの野球ファンです。北海道で大好きな野球が見られるようになって嬉しかったのに、解説があなたじゃないですか。やかましくて聞いていられません』って。初めはショックでしたね。でも前向き思考で10人いて8-9人に支持されるならその人たちのために喋ろうと思ってやっています。関西弁も直そうとは思わないですが、これでもだいぶマイルドな関西弁でお届けしているんですよ。ほんまの関西弁言うたら、いっぺん福本豊さんの解説聞いてみてくださいよ(笑)」

解説の秘密

ノリのいいマシンガントークが持ち味だが、これにも秘密がある。きっかけはレポーターとしてNHKの昼の生中継に出演した時のこと。湘南のシラスを釜茹でする職人の作業をレポートする際、「うわぁ綺麗ですね!みるみるうちに色が変わるじゃないですか!」などと興奮気味にまくし立てた中継の後、ベテランのカメラマンに諭された。

「伝えなきゃいけない、という使命感で沢山言葉を詰め込んでいたんですが、カメラマンさんにこう言われたんです。『コメントしてくれるのは嬉しいんですけど、テレビって見ているときに黙られた方が(視聴者の視線が)画面に寄るんですよ』と。確かにそうだ、と胸に落ちました。黙る勇気、見せる勇気。だから野球の中継でも、本当に凄いプレーが出たり劇的な展開が起きている時は、自分は黙るようにしています。その瞬間から数テンポ遅れて、そのプレーをしっかり解説できたり、胸に残るような言葉を伝えられることが大事かなと思っています。とはいえ、やっぱりうるさいですよ、僕は。だから放送ではいつも言うんです。ボリュームはセルフでね、って(笑)」

新庄監督の未来への期待

新庄監督が初めて迎えるCSの大舞台。そしてその先へ——。白熱のポストシーズンを放送席から伝える岩本氏は、ひっそりとこんな夢を抱いている。

「引退する時に彼は涙ちょちょ切れてましたけど、号泣はしていなかった。だから号泣している新庄監督の姿を届けたいです。その時に僕は、指揮官としての彼の歩みをすらすら、と言える準備をしておきたい。あれほどのスーパースターですから、自分がプレーできないこの3年間はもどかしい思いばかりだったと思う。そのジレンマと戦いまくって、蒔いた種を辛抱強く育てて大きな花が開いた瞬間。それを見させてもらうのを、僕も楽しみにしています」

(前編も公開中)(「プロ野球PRESS」佐藤春佳 = 文)