『極悪女王』の舞台裏:ジャガー横田が語るプロレス界の真実と19歳の孤独

『極悪女王』の舞台裏:ジャガー横田が語るプロレス界の真実と19歳の孤独

Netflixドラマ『極悪女王』が話題を集めている。このドラマは、1980年代の全日本女子プロレスで「全国民の敵」と呼ばれたダンプ松本の知られざる物語を描いている。ドラマには、現在も現役を続けている女子プロレスラーのジャガー横田も登場し、彼女に話を聞いた。

ドラマは、ダンプ松本だけでなく、ライバルだった「クラッシュギャルズ」の長与千種、ライオネス飛鳥ら実在のレスラーたちも登場する。ジャガー横田は1977年に15歳で全日本女子プロレスに入団し、1986年2月に24歳で一度引退するまで、ドラマで描かれた「全女」のすべてを現場で体験している。

63歳の現在も現役レスラーを続けるジャガー横田は、9月19日に配信がスタートした「極悪女王」を全5話をすぐに視聴し、何度も見返しているという。

「何度見返しても、主演のゆりやんさんをはじめ、プロレスラーを演じている俳優さんがみんな素晴らしかったと思います。ドラマは実際のリングで戦うプロレスシーンが多いですが、私は現役レスラーなので、物語を追うよりも、レスラー役の女優さんたちがプロレスを演じる部分に引きつけられました。

プロレスをやりながら演技することはとても難しいです。最初はロクに受け身も取れない状態で技を受けなければならないし、技を受けるのはめちゃくちゃ痛い。マットに叩きつけられると頭の中は真っ白になります。その中で次の演技や型を追いかけながらリング上で演技をしなければならない。痛さで演技どころじゃなかったシーンもあったはずで、これはものすごく難しいだろうなと思いました。しかし、俳優さんたちは見事に表現されていました。まさにプロフェッショナルを見た思いがしました。」

試合シーンを重ねるごとに、ダンプを演じたゆりやん、長与千種役の唐田えりか、ライオネス飛鳥役の剛力彩芽ら女優たちの受け身が磨かれていることを感じた。

「当時、特に若手の試合は派手な技がなく、キックとボディスラム、押さえ込みくらいの試合でした。若手らしい技しか使っていなかったので新鮮でしたし、演じている俳優さんたちは役になりきって受け身の技術もすごく上達していることがわかりました。そこは本当にプロ根性を感じました。もし彼女たちが『プロレスをやりたい』と思ったら、レスラーになれるくらいのレベルに達していました。」

プロレスラー役の女優たちの演技は、当時を知るファンからも「そっくり」「生き写し」などと絶賛されている。

「私は、技をやった後と前の動作、表情が各選手の特徴を捉えていて、似ていると感じました。そこも役者さんたちの努力の賜物だと思います。ただ、水野絵梨さんが演じてくださった私自身は恥ずかしいし、『あんなことやってたのかな?』と思いましたが、周りからは『似ている』と言われるので、そうなんだろうなと受け止めています。」

フィクションとして『極悪女王』を「すごく面白かった」と称賛したジャガーだが、「現実との違いを感じるシーンもありました」と述べた。それは、エピソード2でエースだったジャッキー佐藤との対戦を控えたシーンだった。

1968年に旗揚げした全日本女子プロレスは、松永高司が社長を務め、弟の国松と俊国による「松永三兄弟」が会社を経営し、リング上の運営を決めていた。ジャガーによると、試合を組むマッチメイカーは国松と俊国の二人で、ドラマでは俊国を斎藤工が演じていた。

このエピソード2でジャガーと俊国との会話で、ジャッキー戦へ向けて試合の勝ち負けに関する繊細な会話が描かれているが、ジャガーは毅然とした態度で否定する。

「俊国さんが私のことを気にかけてくれていたことは事実で、とてもお世話になった方です。ただ、ジャッキーさんとの試合前にドラマで演じられているような会話はなかったです。ドラマでそう描かれると、世間のみなさんにプロレスが全部そういうものと思われるのは心外です。」

ドラマで描かれた試合は現実に行われている。1981年2月25日、横浜文化体育館で、当時19歳のジャガーはリングネーム「横田利美」でジャッキー佐藤と対戦し、押さえ込んでフォール勝ちした。この敗戦が引き金となり、3か月後の5月21日にジャッキーは23歳で引退した。

「あの試合があったから今のジャガー横田があると、63歳になった現在は思えます。しかし、当時19歳の横田利美にはそんなこと思えませんでした。試合で勝てるタイミングが来たら必死に押さえ込むことだけしかできませんでした。戦いですから、どうにか勝って終わりたいから勝負を決めようと思って必死で押さえ込みました。試合が終わって、偉大なジャッキーさんに勝って引退に追い込んでしまったことは、当時の私にとってつらいことでした。勝った瞬間は負けなかった安堵感だけ。次に襲った感情は『勝ってしまったぁ…』っていうバツの悪さでした。その嫌な思い、つらさは、同期にも先輩にも後輩にも相談できなかったんです。プロレスラーは、何があってもすべて一人で受け止めて一人で乗り越えないといけません。デビュー4年目で19歳の私が抱えたつらさが想像つきますか?」

ジャッキー佐藤は1999年8月9日に胃がんのため41歳で亡くなった。

「ジャッキーさんは、私に負けた後も怒り出すこともなく私には何も言いませんでした。負けたほうは何も言わないものです…本当にスターでした。本音は、私みたいなダサイ後輩に負けて『はぁ?』とショックだったと思います。ただ、今は亡くなられたので話すこともできませんから…」

ジャッキーへの思いを打ち明けたジャガー。ドラマ『極悪女王』の中で頻繁に使われているあるセリフに言及した。後編へ続く。