『虎に翼』:秘書課長・久藤頼安の存在感が物語を彩る

『虎に翼』:秘書課長・久藤頼安の存在感が物語を彩る

『虎に翼』:久藤頼安の存在が物語を彩る

『虎に翼』の主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)が新潟地裁三条支部に異動になった新潟編では、視聴者にとって大きな欠損があった。それは、寅子を見ればすぐに「サディ!」と叫び、両腕を広げて抱きしめようとする秘書課長・久藤頼安(沢村一樹)の姿が見られなかったことだ。第15週第75回の寅子の壮行会では、家庭局局長・多岐川幸四郎(滝藤賢一)が「さみしくてさみしくて仕方ない」と涙をにじませていた。視聴者もその気持ちを共有し、久藤の存在のありがたみを痛感していた。

久藤は、寅子の成長を見守る眼差しと、彼女を「サディ」と名付けたニックネームで知られる。このニックネームは、寅子の存在証明とも言えるもので、彼女のキャラクターを深く掘り下げる役割を果たしていた。第10週第46回で、戦後の荒廃した東京で家族を養うために職を求める寅子が、司法省で門前払いされそうになった際、久藤が彼女をナイスアシストした場面が初登場だった。胡散臭さを漂わせながらも人懐こい眼差しで、「何てお呼びしようかな」と寅子に声をかけ、その場で「サディ」と名付けた。この一瞬のひらめきが、後に物語全体で重要な役割を果たすことになる。

久藤は、元大名家の生まれでありながら、根っからのアメリカ好きで、自分からライアンと英語名で呼ばれるよう誰彼構わず頼む。しかし、その出自から周りでは「殿様判事」とも呼ばれていた。愛称や呼称、ニックネームと密接に関わる久藤が、寅子を「サディ」と名付けたことは、彼女のキャラクターを象徴する重要なエピソードとなった。

新潟編を経て、第20週第97回で久藤が再登場。東京に戻ってきた寅子が東京地方裁判所所長室に挨拶に訪れ、久藤と再会する場面では、「サディ!」とお決まりの歓待が画面を華やかに彩った。久藤の存在は、視聴者にとっても物語の明るい光であり、彼の再登場は新潟編を我慢した甲斐があったと感じさせた。

さらに、第24週第117回では、最高裁判所第5代長官に就任した桂場等一郎(松山ケンイチ)の祝賀会が開かれ、病床の多岐川の快気祝いも兼ねた席で、桂場が押し黙ってあんこ団子を頬張る場面があった。久藤が「さぁ、短い時間だけどエンジョイしよう」と席上を温める様子は、彼の社交性と包容力を示している。

その後、司法省からの横やりで少年法の改正が議論される中、久藤は法制審議会少年法部会に参加し、一方的に改正を進めようとする委員に対して「はて」という言葉を初めて発する。この言葉は、寅子が社会の不条理に対して投げかけてきた必殺フレーズであり、久藤が発すると「はてぇ」と少し語尾が伸びる。その響きには相手を納得させる持続力があり、戦後の荒波にもまれる最高裁判所でも独自の威力を発揮する。

久藤の存在は、視聴者にとって安心感を与え、寅子の成長を支える重要なキャラクターである。彼の愛の言葉や、寅子への名アシストは、物語全体を明るく照らし、視聴者を引き付ける魅力的な要素となっている。