「SUPER HAPPY FOREVER」: 五十嵐耕平監督とキャストが語る、現代性と運命の交錯

「SUPER HAPPY FOREVER」: 五十嵐耕平監督とキャストが語る、現代性と運命の交錯

9月27日、映画『SUPER HAPPY FOREVER』が劇場公開された。この作品は、『息を殺して』(2014年)や『泳ぎすぎた夜』(2017年)で才能を発揮した映画監督・五十嵐耕平の最新作である。第81回ヴェネチア国際映画祭のヴェニス・デイズ部門で日本映画として初めてオープニング作品に選ばれるなど、さまざまな期待を背負って封切りを迎えた。

この映画は、2018年と2023年の2つの時間軸を描き、その間の5年間の変化や雑音を静かに表現している。2023年、幼馴染の佐野と宮田が伊豆のリゾートホテルを訪れるシーンから始まる。佐野は5年前に同じホテルで出会った女性・凪の影を追ってここに来た。凪と結婚した佐野だが、5年後には彼女はこの世を去っていた。

佐野役を演じるのは、NHK連続テレビ小説『舞い上がれ』(2022年)の佐野弘樹。宮田役は、映画『悪は存在しない』(2023年)などに出演した宮田佳典。2人の役名は本名と同じで、この作品は2人のアイデアから始まった。

「6年前、僕と佐野くんでカフェに入り浸って、『2人の作品をつくろう』という話をずっとしていました。監督には誰がいいか議論し、五十嵐耕平監督に決まりました」(宮田)

「五十嵐監督の過去作を見たときに、『この人の作品のなかに僕たち2人がいたらどうなるだろう?』と感じました。それをぜひ見てみたいと、直接メールでアプローチしました」(佐野)

佐野は「特別な役づくりをする必要はなかった」と語り、宮田は「作中の僕は看護師で、シャドーボクシングをするシーンもありますが、実際僕自身も救急看護師とボクシングを続けています。また、『運命』のような考え方が好きです」と話す。

山本奈衣瑠が演じる凪は、フォトグラファーとして活躍している。2018年の夏、凪は友人と伊豆に取材を兼ねた旅行に来たが、友人が参加できなくなったため、急遽一人旅に。そこで佐野たちと出会い、交流を深めていく。

山本自身もモデルとしてキャリアをスタートし、ファッションアイコンとして注目を集めた後、2019年にフリーマガジン『EA magazine』を創刊。俳優としても地位を確立し、表現者としての道を歩んでいる。『SUPER HAPPY FOREVER』で、フィルムカメラのシャッターを切る凪の姿は、山本の「素の姿」と大きな違いはない。

凪にとって重要な出会いの一つが、ホテルで清掃員として働くベトナム人アン(演:ホアン・ヌ・クイン)とのものだ。2人はわずかな滞在期間中に深い仲になり、凪はチェックアウトの直前に「あるもの」をアンに託す。2023年、ホテルは閉館が決まり、アンもベトナムへの帰国が決まっている。佐野と宮田が再びホテルを訪れたのと同じタイミングで、アンは最終出勤日を迎え、凪から託された「あるもの」を身につけていた。

この映画は、2018年と2023年の2つの時間軸を描きながら、その時間がつながっていることを示している。佐野と凪の関係性は、2つの旅の間の時間や凪の死の顛末を描かずに、伊豆での時間だけが粛々と写し出される。佐野にとって、そして凪にとっても、あの時間こそが「いま」なのだ。

「過去」でも「未来」でもなく「いま」を描き切る。現実と隣り合わせな物語でありながら、テーマに古臭さを一切感じさせない。作品タイトルとも強く結びついているスピリチュアルな「運命論」への各登場人物の向き合い方も、数年前の作品ならこうはならなかっただろうと感じさせるものだ。

2024年に封切られるのが「運命」だった――。そういわれて納得できる「同時代性」を持つ『SUPER HAPPY FOREVER』。現代を生きるあなたはこの映画を見て何を思うか。劇場で確かめてほしい。